頬《ほ》
大理石《なめいし》のごと腐《くさ》れ、仰向《あふの》くや
鼻《はな》冷《ひ》えてほの笑《わら》ふちひさき歯
しらしらと薄玻璃《うすはり》の音《ね》を立つる。
眼《め》をひらく。絶望《ぜつまう》のくるしみに
手はかたく十字《じふじ》拱《く》み、
みだらなる媚《こび》の色
きとばかり。燭《しよく》の火の青み射《さ》し、
銀色《ぎんいろ》の夜《よ》の絹衣《すずし》ひるがへる。

灰色《はひいろ》の暗《くら》き壁、見るはただ
恐《おそ》ろしき一面《いちめん》の壁《かべ》の色《いろ》。
『彼。』とわが憎悪心《ぞうをしん》

むらむらとうちふるふ。
一斉《いつせい》に冷血《れいけつ》のわななきは
釘《くぎ》つけの身を逆《さか》にゑぐり刺《さ》す。
ぎく[#「ぎく」に傍点]と手は音《おと》刻《きざ》み、節《ふし》ごとに
機械《からくり》のごと動《うご》く。いま怪《あや》し、
おぼえあるくらがりに
落ちちれる埴《はに》と鏝《こて》。
つ[#「つ」に傍点]と取るや、ひとつ当《あ》て、左《ひだり》より
額《ぬか》をまづひしひしと塗《ぬ》りつぶす。

灰色《はひいろ》の暗き壁、見るはただ
恐ろしき
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