つろ》する。
表面《うはべ》ただ古地図《ふるちづ》に似て煤《すす》け、
縦横《たてよこ》にかず知れず走る罅《ひび》
青やかに火光《あかり》吸ひ、じめじめと
陰湿《いんしつ》の汗《あせ》うるみ冷《ひ》ゆる時、
鉄《てつ》の気《き》はうしろより
さかしまに髪を梳《す》く。
はと竦《すく》む節々《ふしふし》の凍《こほ》る音《おと》。
生きたるは黒漆《こくしつ》の瞳のみ。
灰色《はひいろ》の暗《くら》き壁、見るはただ
恐ろしき一面《いちめん》の壁の色《いろ》。
熟視《みつ》む、いま、あるかなき
一点《いつてん》の血の雫《しづく》。
朱《しゆ》の鈍《にば》み星のごと潤味《うるみ》帯《お》び
光る。聞く、この暗き壁ぶかに
くれなゐの皷《つづみ》うつ心《しん》の臓《ざう》
刻々《こくこく》にあきらかに熱《ほて》り来《く》れ。
血けぶり。刹那《せつな》ほと
かすかなる人の息《いき》。
みるがまに罅《ひび》はみなつやつやと
金髪《きんぱつ》の千筋《ちすぢ》なし、さと乱《みだ》る。
灰色の暗き壁、見るはただ
恐ろしき一面《いちめん》の壁の色。
なほ熟視《みつ》む。……髣髴《はうふつ》と
浮びいづ、女の
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