はみ》のうねりのにほひなし、入れどものうし。

ああ、なべてものうし、夜《よる》はくらやみの
濁れる空に、熟《う》みつはり落つる実のごと
流星《すばるぼし》血を引き消ゆるなやましさ。
一人《ひとり》ならねど、とろにとろ、寝《ね》れどものうし。
[#地付き]四十年十二月


  灰色の壁

灰色《はいいろ》の暗《くら》き壁、見るはただ
恐ろしき一面《いちめん》の壁の色《いろ》。
臘月《らふげつ》の十九日《じふくにち》、
丑満《うしみつ》の夜《よ》の館《やかた》。
龕《みづし》めく唐銅《からかね》の櫃《ひつ》の上《うへ》、
燭《しよく》青うまじろがずひとつ照《て》る。
時にわれ、朦朧《もうろう》と黒衣《こくえ》して
天鵝絨《びろうど》のもの鈍《にぶ》き床《ゆか》に立ち、
ひたと身は鉄《てつ》の屑《くず》
磁石《じしやく》にか吸はれよる。
足はいま釘《くぎ》つけに痺《しび》れ、かの
黄泉《よみ》の扉《と》はまのあたり額《ぬか》を圧《お》す。

灰色《はひいろ》の暗《くら》き壁、見るはただ
恐ろしき一面《いちめん》の壁の色《いろ》。
暗澹《あんたん》と燐《りん》の火し
奈落《ならく》へか虚《う
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