のなかに、
箸とりて笑《ゑ》らぐ赤ら頬《ほ》、夕餉《ゆふげ》盛《も》る主婦《あるじ》、家の子、
皆、古き喜劇《きげき》のなかの姿《すがた》なり。涙ながるる。
[#地付き]三十九年五月


  内陣

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ほのかなる香炉《かうろ》のくゆり、
日のにほひ、燈明《みあかし》のかげ、――
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文月《ふづき》のゆふべ、蒸し薫《くゆ》る三十三間堂《さんじふさんげんだう》の奥《おく》
空色《そらいろ》しづむ内陣《ないぢん》の闇ほのぐらき静寂《せいじやく》に、
千一体《せんいつたい》の観世音《くわんぜおん》かさなり立たす香《か》の古《ふる》び
いと蕭《しめ》やかに後背《こうはい》のにぶき列《つらね》ぞ白《しら》みたる。

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いづちとも、いつとも知らに、
かすかなる素足《すあし》のしめり。

そと軋《きし》むゆめのゆかいた
なよらかに、はた、うすらかに。

ほのめくは髪のなよびか、
衣《きぬ》の香《か》か、えこそわかたね。

女子《をみなご》の片頬《かたほ》のしらみ
忍びかの息《いき》の香《か》ぞする。

舞ごろも近づくなべに、
うつらか
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