》の熱味《ほてり》嗅《か》ぎつつも思ひぞいづる。
晩秋《おそあき》の空ゆく黄雲《きぐも》、畑《はた》のいろ、見る眼《め》のどかに
夕凪《ゆふなぎ》の沖に帆あぐる蜜柑《みかん》ぶね、暮れて入る汽笛《ふえ》。
温かき南の島の幼子《をさなご》が夢のかずかず。
また思ふ、柑子《かうじ》の店《たな》の愛想《あいそ》よき肥満《こえ》たる主婦《あるじ》、
あるはまた顔もかなしき亭主《つれあひ》の流《なが》す新内《しんない》、
暮《く》れゆけば紅《あか》き夜《よ》の灯《ひ》に蒸《む》し薫《く》ゆる物の香《か》のなか、
夕餉時《ゆふげどき》、街《まち》に入り来《く》る旅人がわかき歩みを。
さては、われ、岡の木《こ》かげに夢心地《ゆめここち》、在《あ》りし静けさ
忍ばれぬ。目籠《めがたみ》擁《かか》へ、黄金《こがね》摘《つ》み、袖もちらほら
鳥のごと歌ひさまよふ君ききて泣きにし日をも。――
ああ、耳に鈴《すず》の清《すず》しき、鳴りひびく沈黙《しじま》の声音《いろね》。
柴《しば》はまた音《おと》して爆《は》ぜぬ、燃《も》えあがる炎《ほのほ》のわかさ。
ふと見れば、鍋の湯けぶり照り白らむ薫《かをり》
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