、襁褓《むつき》を乾《ほ》せり。
そのかげに穢《むさ》き姿《なり》して
面子《めんこ》うち、子らはたはぶれ、
裏店《うらだな》の洗流《ながし》の日かげ、
顔青き野師《やし》の女房ら
首いだし、煙草吸ひつつ、
鈍《にぶ》き目に甍《いらか》あふぎて、
はてもなう罵りかはす。
凋《しを》れたるもののにほひは
溝板《どぶいた》の臭気《くさみ》まじりに
蒸し暑《あつ》く、いづこともなく。
赤黒き肉屋の旗は
屋根越に垂れて動かず。
はや十時、街《まち》の沈黙《しじま》を
しめやかに沈《ぢん》の香しづみ、
しらじらと日は高まりぬ。
[#地付き]三十九年八月
ひらめき
十月《じふぐわつ》のとある夜《よ》の空。
北国《ほつこく》の郊野《かうや》の林檎
実《み》は赤く梢《こずゑ》にのこれ、
はや、里の果物採《くだものとり》は
影絶えぬ、遠く灯《ひ》つけて
ただ軋《きし》る耕作《かうさく》ぐるま。
鬱憂《うついう》に海は鈍《にば》みて
闇澹《あんたん》と氷雨《ひさめ》やすらし。
灰《はひ》濁《だ》める暮雲《ぼうん》のかなた
血紅《けつこう》の火花《ひばな》ひらめき
燦《さん》として音《おと》なく消
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