正面《まとも》、
鉄《てつ》重《おも》き橋の構《かまへ》に
雲ひとつまろがりいでて
くらくらとかがやく真昼《まひる》、
汗《あせ》ながし、車|曳《ひ》きつつ
匍匐《は》ふがごと撒水夫《みづまき》きたる。
[#地付き]三十九年九月


  軟風

ゆるびぬ、潤《うる》む罌粟《けし》の火は
わかき瞳の濡色《ぬれいろ》に。
熟視《みつ》めよ、ゆるる麦の穂の
たゆらの色のつぶやきを。

たわやになびく黒髪の
君の水脈《みを》こそ身に翻《あふ》れ。――
うかびぬ、消えぬ、火の雫《しづく》
匂の海のたゆたひに。

ふとしも歎《なげ》く蝶のむれ
ころりんころと……頬《ほ》のほめき、
触《ふ》るる吐息《といき》に縺《もつ》るれば、
色も、にほひも、つぶやきも、

同じ音色《ねいろ》の揺曳《ゆらびき》に
倦《うん》じぬ、かくて君が目も。――
あはれ、皐月《さつき》の軟風《なよかぜ》に
ゆられてゆめむわがおもひ。
[#地付き]四十年六月


  大寺

大寺《おほてら》の庫裏《くり》のうしろは、
枇杷あまた黄金《こがね》たわわに、
六月の天《そら》いろ洩るる
路次《ろじ》の隅、竿《さを》かけわたし
皮交り
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