なみは赤き煉瓦家《れんぐわや》。
牢獄《ひとや》めく工場《こうば》の奥ゆ
印刷《いんさつ》の響《ひびき》たまたま
薄鉄葉《ブリキ》切る鋏《はさみ》の音《おと》と、
柩《ひつぎ》うつ槌と、鑢《やすり》と、
懶《もの》うげにまじりきこえぬ。
片側《かたかは》の古衣屋《ふるぎや》つづき、
衣紋掛《えもんかけ》重き恐怖《おそれ》に
肺《はひ》やみの咳《しはぶき》洩《も》れて、
饐《す》えてゆく物のいきれに、
陰湿《いんしつ》のにほひつめたく
照り白《しら》み、人は黙坐《もくざ》す。
ゆきかへり、やをら、電気車《でんきしや》
鉛《なまり》だつ体《たい》をとどめて
ぐどぐどとかたみに語り、
鬱憂《うついう》の唸《うなり》重げに
また軋《きし》る、熱《あつ》く垂れたる
ひた赤《あか》き満員《まんゐん》の札《ふだ》。
恐ろしき沈黙《しじま》ふたたび
酷熱《こくねつ》の日ざしにただれ、
ぺんき塗《ぬり》褪《さ》めし看板《かんばん》
毒《どく》滴《た》らし、河岸《かし》のあちこち
ちぢれ毛《げ》の痩犬《やせいぬ》見えて
苦《くる》しげに肉《にく》を求食《あさ》りぬ。
油《あぶら》うく線路《レエル》の
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