、「枕《まくら》かむ」と活用せしめたのと同じである。然《しか》らば、半《なから》き・半《なから》く等の活用形がある筈《はず》だろうといわんが、其処が滑稽歌《こっけいか》の特色で、普通使わない語を用いたのであっただろう。それゆえ、この歌に応《こた》えた、「檀越《だむをち》や然《し》かもな言ひそ里長《さとをさ》らが課役《えつき》徴《はた》らば汝《なれ》も半《なから》かむ」(巻十六・三八四七)という歌の例と、万葉にただ二例あるのみである。この応え歌は、「檀那《だんな》よ、そう威張りなさるな、若し村長さんが来て、税金や労役の事でせめ立てるなら、あなたも半分になってしまいましょう。どうです」というので、二つとも結句は、「半《なから》かむ」でなくては面白くない。またいずれの古鈔本も「半甘」で、他の書き方のものはない。愚案は、昭和十三年一月アララギ、童馬山房夜話参看。
○
[#ここから5字下げ]
吾《わ》が門《かど》に千鳥《ちどり》しば鳴《な》く起《お》きよ起《お》きよ我《わ》が一夜《ひとよ》づまひとに知らゆな 〔巻十六・三八七三〕 作者不詳
[#ここで字下げ終わり]
もう門のところには、千鳥がしきりに鳴いて夜が明けました。あなたよ、起きなさい。私がはじめてお会したあなたよ、人に知られぬうちにお帰りください。原文には、「一夜妻」とあるから、男の歌で女に向って「一夜妻」といったようにも取れるが、全体が男を宿《と》めた女の歌という趣にする方がもっと適切だから、そうすれば、「一夜|夫《づま》」ということになる。この歌は民謡風な恋愛歌で作者不明のものだから、無名歌として掲《かか》げているのである。「千鳥しば鳴く起きよ起きよ」のところは巧《たくみ》で且《か》つ自然である。「一夜夫」と解するのは考・古義の説で、「妻はかり字、夫《ツマ》也。初て一夜逢し也」(考)とあるが、これは遠く和歌童蒙抄《わかどうもうしょう》の説まで溯《さかのぼ》り得る。あとは多く「一夜妻」説である。「人ノ妻ヲ忍ビテアリケルニ」(仙覚抄)、「一夜妻はかりそめに女を引き入れて逢ひしなり」(新考)云々《うんぬん》。
[#改ページ]
巻第十七
○
[#ここから5字下げ]
あしひきの山谷《やまだに》越えて野《ぬ》づかさに今《いま》は鳴《な》くらむ鶯《うぐひす》のこゑ 〔巻十七
前へ
次へ
全266ページ中239ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
斎藤 茂吉 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング