その女形《をんながた》になつたり、堀田《ほつた》の陣屋があつた時に、農兵になつて砲術を習つたり、おいとこ。しよがいな。三さがり。おばこ。木挽《こびき》ぶし。何でもうたふし、祖父以来進歩党時代からの国会議員に力※[#「やまいだれ+(「堊」の「王」に代えて「田」)」、124−下−1]《ちからこぶ》いれて、※[#「宀/隆」、第4水準2−8−9]応《りゆうおう》和尚から草稿をかいてもらつて政談演説をしたり、剣術に凝り、植木に凝り、和讃に凝り、念仏に凝り、また穀断《ごくだち》、塩断《しほだち》などをもした。
僕のやうな、物に臆し、ひとを恐れ、心の競ひの尠《すくな》いものが、たまたま父の一生をおもひ起すと、そこにはあまり似寄《により》の無いことに気付くのであつたが、けれども是《これ》は自ら斯《か》う思ふといい。僕は父が痰《たん》を煩つたときの子である。生薑《しやうが》の砂糖漬などを舐《ねぶ》つてゐたときの子である。さういふ時に生れた子である。ただ、どちらにしても馬胎《ばたい》を出《い》でて驢胎《ろたい》に生じたぐらゐに過ぎぬとは僕もおもふ。
8 青根温泉
父は五つになる僕を背負ひ、
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