《みんな》が声を挙げて笑つた。そして汁の乾くのを促すために息を吹きかけたりなどした。
大小いろいろと描いて来て、僕の腕に小さいのを描いてくれた。それは今からおもへば降誕八日めに割礼《かつれい》した耶蘇《ヤソ》の男根のやうな恰好であつたとおもへばいい。童子は最後に自分の腕に思ひ切り大きいのを描いておしまひにした。
次の日の朝みんなが集まつて腕の絵を見せ合つて大声で笑つた。絵のところだけが黒くなつて乾いたから、きのふに較《くら》べてはつきりして来てゐる。然るに僕のだけは絵のところが黒くならずに赤くなつて少し腫《は》れあがつてゐる。
その次の朝もみんなが絵を見せあふと、絵のところが益※[#二の字点、1−2−22]《ますます》黒くなつて乾いてゐるのに、ただ僕のだけはゆうべから癢味《かゆみ》が増して来、それに痛味《いたみ》が加はつて絵のところから汁が出はじめた。僕は授業をうける時にも癢いのと痛いのとでなやんで居た。さうすると、沢蟹《さはがに》をつぶしてつけると直るといふものがあつた。学校の裏は直ぐ沢になつてゐて、石を一寸《ちよつと》避《よ》けると小さい蟹を幾つも捕へることが出来る。僕はそれ
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