髏^似をするのであるから、童子どもはころころと転がつた。ここから見おろす維也納の街は、はるかに黄褐色の靄《もや》につつまれてゐる。その澄みがたき靄のなかに寺の尖塔がかすかに見えてゐる。午後一時ごろここの食店で簡単に午食を取つた。安料理の匈牙利《ハンガリー》グラシユが、一万五千クロネであるから、なるほど、「あそこの飯は少し高いよ」であつた。僕は食後の※[#「口+加」、第3水準1−14−93]※[#「口+非」、第4水準2−4−8]《コーヒー》をしづかに飲ほしてそこを出た。
ある人の銅像などが立つてゐる。そこを過ぎると宏大な市有のホテルがあり、いま閉ぢてゐる。その裏は直ぐ森林に続いてゐる。道は落葉にうづまり、雪解の水で靴を没するほどである。僕は爪先あがりの山道をなづみながら上つて行つた。森林はおほむね落葉樹林であるが、ところどころに松の木が繁つてゐて松かぜのおとがする。のぼつて行く山道のあるところに水が湧いて、そこに少しばかり青い小草《をぐさ》が生えてゐる。「かりうどのみづ」などいふ小さい木札がぶらさがりゐる。
そこを通つてのぼり行くと、規模が開けて大きくなつて来てゐる。木立が高く、ひろ
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