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 然るに近年版の広東話もしくは官話の漢訳聖書には、「接吻」ではなくて、「親嘴」としてある。たとへば、馬太伝第廿六章のところを次の如くに書いてゐる。売耶蘇※[#「漑」のさんずいに代えて「口」、317−下−11]也曾俾個記号※[#「にんべん+巨」、317−下−11]※[#「口+地」、317−下−11]話我所親嘴※[#「漑」のさんずいに代えて「口」、317−下−11]就係※[#「にんべん+巨」、317−下−12]咯※[#「にんべん+尓」、第3水準1−14−13]※[#「口+地」、317−下−12]捉住※[#「にんべん+巨」、317−下−12]※[#「口+羅」、第3水準1−15−31]就即刻到耶蘇処話夫子平安就同※[#「にんべん+巨」、317−下−12]親嘴。そこで僕は目下、もつと旧い漢訳聖書をしらべてもらふやうに友人に頼んでゐる。中華は古来いはゆる道徳の国であるから、たとひ古くから、「吻合」などの成語があつても之を接吻とは別の意味に用ゐ来つてゐた。以上の如く僕は想像したが、近頃日本で出来る漢和字典には既に「接吻」をば熟語として採録してゐる。そこで、ひよつとしたら「接吻」の語は、近世の和製
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