オさうな面相が四人とも皆違つてゐて、実にいいものである。若い四人は聖アンナの友である。その四人のほかに黒い蔽衣で頭まで蔽うた媼《おうな》がゐる。それは接吻を見ない振してゐる。左方に若い男が右手に籠をさげ左の肩に何か鍬のやうなものを担いでゐる。これもやはり微笑してゐる。聖ヨアヒムと聖アンナの唇は全く触れて描いてゐるが、二人とも目つきは笑つてはゐない。
 二つは、ユダが基督に接吻する図である。炬をかかげてゐるもの、竹槍、棒などを持つてゐるもの沢山、角笛を吹いてゐるもの一人などがかいてあつて、中央にユダが基督の両肩に抱付いて、唇を尖げて接吻しようとしてゐる。二人が目と目とを合せてゐるところである。その左手に短刀で人の耳朶《みみたぶ》を切落したところがかいてある。その短刀の絵具が半ば剥《は》げてゐる。この図は、
 起きよ、我儕《われら》往くべし。我を売《わた》すもの近づきたり、此如《かく》いへるとき十二の一人《ひとり》たるユダ剣《つるぎ》と棒とを持ちたる多くの人人と偕《とも》に祭司の長《をさ》と民の長老《としより》の所《もと》より来る。イエスを売《わた》す者かれらに号《しるし》をなして曰《い》
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