急いで船を岸へ着けさした。
「どうして、来たのです」
 倩娘は倒れ込むように船の中へ入って来た。いたいたしい跣足《はだし》の足元が見えた。
「跣足じゃないか、一体どうしたのです」
 倩娘は宙にすがりついて泣いた。
「私は、私は、貴君《あなた》のことが気になって、立っても、いても、いられなくなりましたから、家《うち》を逃げだして、夢中になって走って来ました」
「倩さん、あんたの心が判った、私は伯父さんに、もう何んと思われてもかまわない、決してあなたを離さない」

 二人は蜀へ往って暮した。五年の間に二人の小供ができた。その時分になって倩娘は父と母のことが気になって、衡州へ帰りたくなった。
「私は、お父さんやお母さんに会って、お詫びをしないと、気がすみません、どうか衡州へ帰ってください」
 宙もそれを思わないでもなかった。
「わしも、そのことは思ってる、ではお詫びに帰ろう」
 二人は小供を伴《つ》れて船で帰って往った。
 船が衡州へ着くと、宙は倩娘と小供を残しておいて、一人で張鎰の屋敷へ往った。
「私は王宙でございます、伯父さんにお取次ぎをねがいます」
 宙は取次ぎの男が引込《ひっこ》んで
前へ 次へ
全8ページ中5ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
陳 玄祐 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング