往った後で、伯父に向って云う謝罪の言葉を考えながら黙然《もくぜん》と立っていた。
「王宙が帰って来たと云うのか、待ち兼ねていた、取次ぎも何にも入《い》るものか、さあ、早くあがって来るがいい」
聞き覚《おぼえ》のある張鎰の声がして、そそくさと跫音《あしおと》がした。宙は不思議に思って顔をあげた。伯父の張鎰が機嫌のいい顔をして立っていた。
「さあ、他人行儀はいらんことだ、早くあがるがいい、伯母さんもお前のことを云って待ち兼ねてる」
「ほんとに相済《あいすま》んことをいたしております、今日は、お詫びに帰りました」
「何のお詫びをすることがある、さあ、あがるがいい」
「そうおっしゃられると、穴へ入りたいほどでございます、倩娘もいっしょに帰って来ておりますが、伯父さんのお許しを得てからと思いまして、船へ残してまいりました」
張鎰は驚いて眼を瞠った。
「倩娘、倩娘がどうしたと云うんだ、倩娘はずっと病気だ、お前が蜀へ往ってから間もなく病気になって、約束の婚礼も破談にして、それからずっと寝てるんだ、そんな馬鹿なことがあるものか」
宙も不審が晴れなかった。
「でも、確《たしか》に、倩娘は私が蜀に往
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