倩娘
陳玄祐
田中貢太郎訳

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【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)室《へや》

|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)一足二足|自個《じぶん》を
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 王宙は伯父の室《へや》を出て庭におり、自個《じぶん》の住居へ帰るつもりで植込《うえこみ》の竹群《たけむら》の陰《かげ》を歩いていた。夕月がさして竹の葉が微《かすか》な風に動いていた。この数日の苦しみのために、非常に感情的になっている青年は、歩いているうちにも心が重くなって、足がぴったりと止ってしまった。……もうこの土地にいるのも今晩限りだ、倩《せい》さんとも、もう永久に会われない、これまでは、毎日のように顔を合さないまでも、不思議な夢の中では、楽しみをつくしておったが、明日この土地を離れるが最後、もうその夢さえ見ることもできなくなるであろうと思った。宙は伯父の張鎰《ちょういつ》が恨《うら》めしくなってきた。
 小さい時から衡《こう》州へ呼び寄せられて倩娘《せいじょう》といっしょに育てられ、二人の間は許嫁《いいなずけ》同様の待遇で、他人に向っておりおり口外する伯父の詞《ことば》を聞いても、倩娘は自
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