個《じぶん》のものと思うようになり、厳しい当時の道徳では、小さいときのように同席することはできなかったが、それでも二人の間には霊感の交渉があって、女の方のことは判らないが、宙の方では夢の中で倩娘ととうに夫婦となっていた。ところで、その倩娘は伯父の幕僚の一人に許された。
 ……それにしても、伯父は何んと云う不誠実な男であろう、これが恩義のない他人であったなら、俺《おれ》はこんな男に対して、どんな手段を取るだろう、俺が蜀《しょく》の都へ往《ゆ》くのは、拗《す》ねて往くのではない、苦しいから逃げて往くのだ、何《いず》れにしても、俺の事情を知っておる者ならどちらかに解釈すべきはずだ、それだのに、伯父はどうだ、お前を手離しては、自個《じぶん》の小供と離れるも同じことで、淋しくてならない、不自由なことがあれば、何んでも言うなりになってやるから、此処《ここ》におれと云っている、それは別に心にもないことを云っているでもないらしい、だが、倩さんとの関係のことは、綺麗《きれい》に忘れてしまったような顔をしている、真箇《ほんとう》に忘れたとは云わさないぞ、と、宙はまた伯父の心理状態を考えて見た。
 ……やっ
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