新しい倩娘の涙と結びついた。微月《うすづき》に照されて竹の幹にそうて立っていた、可憐《かれん》な女の容《さま》を浮べると、伯父に対する恨《うらみ》も、心の苦痛も、皆消えてしまって、はては涙になってしまった。
夜|晩《おそ》くなって船は土手に沿うて進んでいた。宙は倩娘のことが頭に一ぱいになっていて眠られないので、起きて船べりにもたれていた。微赤《うすあか》い月が川にも土手の草の上にもあった。
ばたばたと走って来る人影が土手の上に見えた。この夜更けにどうした人であろうと思って、見るともなしにそれに眼をやった。
人影は近くなって来た。それは若い女らしかった。悪者《わるもの》に追かけられた者であろうか、それとも、親や良人《おっと》に大事なことでもあって、走っているものであろうか、聞いたうえで都合によっては、この船で送ってやってもいい、どうせ急がない旅である……。
宙はこう思って、船と女との並行するのを待っていた。
「宙さん、宙さんではありませんか」
宙は驚いて眼を瞠《みは》った。声なり、姿なり、それは確《たしか》に倩娘であった。
「倩さん、倩さんか」
「え、え、私よ、宙さん」
倩は
前へ
次へ
全8ページ中4ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
陳 玄祐 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング