を作った木は、今でも秩父《ちちぶ》であずさ[#「あずさ」に傍点]と称している。この方には漢名はないということである。鴎外は専《もっぱ》ら漢土の文献について説を立てているのであるが、楸は漢土では松柏《しょうはく》の熟語と殆ど同義に用いられ、めでたい木で、しかも大木になるとある。普通の辞書にはあかめがしわ[#「あかめがしわ」に傍点]に梓字を当てて、版木《はんぎ》に使われるとある。上梓《じょうし》とか梓行とかいうのはそれであろうか。そして見ればむこうでいう梓はあかめがしわ[#「あかめがしわ」に傍点]かとも思われる。牧野さんはまたいう。あかめがしわ[#「あかめがしわ」に傍点]は上野公園入口の左側の土堤の前に列植してある。きささげ[#「きささげ」に傍点]は博物館の庭にあると。鴎外はこれに附記して、自分は賢所《かしこどころ》参集所の東南に一株あったと記憶するといっている。
 きささげ[#「きささげ」に傍点]は『万葉』に出ているひさき[#「ひさき」に傍点]のことである。鴎外は『万葉』のひさき[#「ひさき」に傍点]には少しも触れていない。鶴見はそのひさき[#「ひさき」に傍点]について書いて置きたいこと
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