とき、石蒜が外来植物の一つであったろうかという想像に、その事の可能であるべき理由が附与せられる。

 ※[#「木+蟶のつくり」、第3水準1−86−19]柳《ていりゅう》のことがある。ぎょりゅう[#「ぎょりゅう」に傍点](御柳)といって、今日では主としていけ花の方で珍重がられている。世間にそう多くはない木である。御柳を知っているのは大抵いけ花界の人たちということになる。それも立木《たちき》のままで見たものはいくらもないであろう。
 鶴見は静岡に長年住んでいたが、近所で一本見たきりである。ちょっといぶき[#「いぶき」に傍点]のような趣きがあり、枝先は素直に垂れて、粉紅《こなべに》色の花をつける。あんな常磐木《ときわぎ》にこんな柔かい花が咲くかと思わせるような、奇異で、うるわしい花である。鶴見が見つけたというその木は板塀に囲まれた狭苦しい空地《あきち》に、雑木と隣り合って、塀から上へ六尺位は高くなっていた。それが年に一度は必ず坊主にされる。花屋が切りに来るのである。鶴見はその度ごとに「おや、おや。またか。」そういって苦笑するのを禁じ得なかった。
 渋江抽斎《しぶえちゅうさい》がこの木を愛して
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