石蒜の球根が附いて来たものから次第に殖《ふ》えたものだろう。今は何一つ、それらしいけはいもないのであるが、追々に彼岸も近づいて来る。或る朝目を醒《さま》して見ると、そこに思いも寄らぬ真紅《しんく》の花が歌っている。舞を舞っている。鶴見はその物狂いの姿を示す奇蹟の朝を楽しみにして待っているのである。静寂な「無」に育《はぐく》まれる遑《あわ》ただしい幻想でなくて何であろう。
田舎道を歩いて見る。路《みち》ばたに何ほどかの閑地《あきち》が残されていて、そこが少し高みになった場所がある。苔蒸した石碑などが傾いたまま草むらに埋もれている。そういうところによく石地蔵《いしじぞう》が据えてある。古い時代の墓地であったのであろうか。珍しくもない鄙《ひな》びた光景であるが、そういうところで、わが彼岸花は、思いのままに村の小供を呼び寄せる。
石蒜の球根はたしかへぼろ[#「へぼろ」に傍点]といった。小供たちはその球根を掘り起して、緒《お》に繋《つな》いで、珠数《じゅず》に擬《なぞら》えて、石地蔵の頸《くび》に掛けて遣《や》る。それだけではすまない。まだまだいたずらをする。球根を磨《す》りつぶすと粘った
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