中心に置いている。思い附きであり、そうらしいと推し量るに過ぎないが、それでも構わぬとなれば、言うことはいくらでもある。思ったとおりに何でも言いたいのが鶴見の性分《しょうぶん》である。それを先ず言っておいて、疑わしいところは教を受けたいと思っているのである。
 石蒜についてもまだかかわりがある。自分の意見は出し尽していない。心のなかのどこかに札《ふだ》を掛けておいたなりではいつまでも気にかかる。それを鍵から脱《はず》して見たいのである。
 第一は石蒜が人里近く分布しているという事。そこにふと気が附いた。気が附いて、いろいろ思い合せると、どうもそうらしい。山にも生えていないし、曠野にも見当らない。
 石蒜が群をなして繁っている場所は、田舎道の両側か、草土手か、墓地か、そんなところが数えられる。彼岸花、天蓋花《てんがいばな》、死人花《しびとばな》、幽霊花、狐花などという、あまり好ましくない和名が民間に行われている故以《ゆえん》であろう。その中で穏かなのは彼岸花というのだけである。それとても抹香臭《まっこうくさ》い。もともと実物がわが国になかったところへ、何かの理由があって余所《よそ》から這入
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