とうかい》しているのではなかろうか。それが心寂しく飽足《あきた》らなかったのである。
鴎外の意図するところのものが追々に推測されて来る。
わが鴎外はことさらにそういう境地を仮に選んであそんでいるのではなかろうか。そういうようにも思われて来る。時としてはその境地が、鶴見には八幡《やわた》の藪《やぶ》のようにも見える。鴎外はそこで円錐《えんすい》の立方積を出す公式をひとりで盛んに講釈している。結局人を煙に巻いているのではなかろうか。それも好い。
鶴見はここであの才気の勝った風貌を思い浮べる。鴎外には人を人とも思わぬしたたかな魂があって、我を我とも思わぬのではなかろうか。ゲエテを引いて日々の勤めなんぞと考えて見るが内心は決して満たされていない。そして口にもし行いもするところのものは、いつも中庸であり、穏健である。ただその間に辛辣《しんらつ》な風気が交《まじ》ることがある。潔癖があったからである。それで思い切ったこともしかねない。現に人の好んでせぬことを独力で敢てした。
鴎外の為人《ひととなり》の見どころはその辺にあるのではなかろうか。人はこれを聞いて言うにも及ばぬ平凡事となすであろう
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