#「どくだみ」に傍点]に白い花が咲いて、それが四弁だと数えているが、あれは植物学上、実は萼片《がくへん》に当るもので、花びらではないというのである。それだけのことを注意するためにわざわざ端書をよこした。鶴見は御苦労なことと思っただけでそれなりにしておいた。今になって考えて見れば啄木もその頃既に変った風格を具えた人間であった。あの矯飾していたような中に生一本《きいっぽん》な気質を蔵していたということが分って、こんな些細《ささい》な事が快く思い出されるのである。
鶴見は啄木のことを回想しながら右の手に出来た肉刺を見返した。だいぶ膨《ふく》れてはいるがひどく痛みはしない。それで夢中になって鎌を扱っている。二時間くらいはすぐ立ってしまう。
そんな仕事を二、三日つづけてしていたので疲れが出てぐったりしているのである。
鶴見は思った。おれには植物に対する興味が押え切れぬほどある。鬱屈した気分を解くには草木|花卉《かき》のことを考えるに限る。鶴見はさきに『死者の書』を読み、感動して、動物の姿を追うて、過現未の三世《さんぜ》に転々した。動物のことを考えると自然に輪廻の思想にはまり込んでゆく。そ
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