こる雑草は今のうちに※[#「てへん+劣」、第3水準1−84−77]《むし》って置く方が好い。それがまた適当な仕事のように思われたからである。※[#「てへん+劣」、第3水準1−84−77]るといっても大半は鎌を使わねばならない。庭はそれほど荒れているのだ。それで二日もやっていると、鎌を持つ右の手の薬指の附根に肉刺《まめ》をこしらえてしまった。
 鶴見は元来若い時には老父の手助けになって、庭の整理ならかれこれと何でもやって来たので、大抵の事には心得がある。伐《き》りおろした樫《かし》の枝を鉈《なた》でこなして薪《まき》に束ねる。そういうこともよくしていた。
 秋のすえである。打ち込む鉈の下から樫の枝が裂ける。痛い血を流すかわりに、樫の生木《なまき》はその裂け目から一種強烈な香気を放散する。それは強くはあるが、またどこやら仄《ほの》かなところがあり、人を深みに誘い込むような匂である。自然の生命は樹木の枝々の端までも通っている。それを悟らせるための匂であるように思われる。鶴見はそんなことをその時しみじみと感じた。
 鶴見に取っては、庭は自分の体とそう違ったものではない。樹木の枝は彼の四肢《しし
前へ 次へ
全232ページ中66ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
蒲原 有明 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング