へ行って修行して来たとかいっている。腕前の好いことは、市内に散在するその実績を見ているので間違いはあるまいと思ったからである。
 庭造りには地所の狭い割に人夫も大勢かかり、万力《まんりき》などという道具もいろいろと備え附けられる。そうこうするうちに、庭師の自慢の大石が運ばれて来た。市に接した山村に捜索に往《い》って、渓流の畔《ほとり》に転がっていたものを見つけ出したというのである。鶴見に取って庭師の自慢話は実はどうでも好いのである。
 その大石というのは子持石《こもちいし》であった。凝灰岩《ぎょうかいがん》に堅くて黒い礫《れき》を孕《はら》んでいる。その大小の礫の抜け出したあとが痘痕《あばた》のように見える。その穴にはしのぶ[#「しのぶ」に傍点]が生えている。いわゆるのきしのぶ[#「のきしのぶ」に傍点]である。石の形は蝦蟇《がま》が蹲《うずくま》っているようにも思われて、ちょっと渋い姿を見せている。一方の腹面には凹処があって、そこに水が溜る。頂上にはわざと削ったような平面が少しある。
 鶴見はその石の頂上にある平面のところに、かつては小さな龕《がん》が祀《まつ》られてあったものと想像し
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