くそう思って困惑した。素直《すなお》に情感が流れて来ないということは、そういう濃《こま》やかな雰囲気を醸《かも》し出《だ》す境遇にかれが置かれていないという事、その事をかれは次第に自覚してきた。かれはこの叙情の才能に欠けていることを、詩人として立つ上において殆ど致命的であるかの如く思い詰めた。実際にその作詩は情趣に乏しかった。題材は自然、神話、伝説にわたって、各※[#二の字点、1−2−22]異ってはいたが、事象の取扱はいずれも外面的で、どうやら合理的科学的な方法への傾向を持っていた。その上にも時事問題にまで心を牽かされていた。それはそれで調和が取れていれば好かったが、ただわけもなく雑然と混糅《こんじゅう》していた。
鶴見がそこに気がついてから、これを苦にして漸《ようや》くにしてたどりついたのが言葉の修練ということである。先ず自分に欠けている情趣を自分のなかから作り出そうという考に到達した。さてその考を実現するには何を根本に置くべきか。それが順序として次に解かねばならぬ疑問である。かれはその当時それほどまでの分別はしていなかった。それにしても既に案出した問題の性質から、詩の重要性が言葉
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