に対する処置を取り得なかった。またそうさせぬものが胸中に蟠《わだかま》っていて自由な行動を制していたのである。
かれが文壇に登場したはじめには、小説というものを真似事のように書いてみた。二度目に苦心して書き上げてみたが、苦心をしただけに、すぐに厭気《いやけ》がさす。なぜというに、小説を書くことは自分の宿志に背《そむ》くと思ったからである。そして反省する。反省に反省を重ねて、その苛責《かしゃく》に悩むのがかれの癖である。彼はそれから詩を書く決心をした。かれの好みは幼年時より詩の方に向いていたのである。詩は書きたい。しかし強《あなが》ちに詩人になろうとまでははっきりさせていなかった。今となってはそうしているだけでは済まされない。かれはこの時はじめて詩人になろうと盟《ちか》って、おれはこれから詩人になるのだと叫んでみて、その声を自分自身に言い聞かせた。そうして既に詩人となったつもりで詩を書こうというのである。それが既に無理である。あれこれと試みたものの、書き上げてみればそのあらだけが目について、どうにも長く見ているに堪《た》えられなくなる。おれには叙情についての才能が足りない。かれはつくづ
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