に上の方へと起《た》ちあがらせている。土を破って地上に曝《さ》らされた根株は、大風雨の日に倒されたときのままに置かれてあるのであろう。その根元近くから幹の分れの大枝が出て、これも本幹に添うて斜に腕を押し伸べている。その上に密生して簇《むらが》っている細かい枝までがこの木特有の癖を見せて、屈曲して垂れさがり、その尖《さき》を一せいに撥《は》ねあげる。柘榴の木立《こだち》の姿はそういうところに、魅力がある。
今は季節であるから盛に若芽をふいているが、仔細に見ると、老木の割に若芽がひどく競《せ》り合《あ》い過ぎるように思われる。鶴見は颱風《たいふう》で一度倒されたということを聞いたのみで、その後の状態については知らされていない。想うに、樹勢は一時衰えていて、それが追々に回復して来たというように見られる。今年は極めて威勢が好い。忽《たちま》ちのうちに若葉が重《かさな》って幹の大半を隠してしまう。花つきの悪いのはそのためであろう。それでも若葉の底の方の、思いもかけぬところから真紅《しんく》の花の蕾《つぼみ》が覗《のぞ》く。二つ三つ咲きかけたのもある。
そこへ翅《はね》の白い蝶《ちょう》がいち
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