鶴見はいう。
「こう遣《や》っていて、新鮮な空気を思う存分吸っていると、おれの精神も遽《にわ》かに羽根を生《は》やして、皺《しわ》の寄ったこのからだを抜け出して、あの日光を浴びて、自由に飛んで行って、舞い遊んでいるような気分になる。まあ一口で言えば仙人修行が積んだというかたちだね。実際そういう修行をした人が昔から日本にだって幾らもあったのだ。おれも禁煙で煙草は楽になったが、もう一つ代用食にも手を出さずに済ます工夫はあるまいかな。気を吸って心を養うのだ。わけなさそうだが」といって高笑いをする。
庭木のうちでは槙《まき》がいちばん大木であり、丈《たけ》も高い。朝日が今その梢《こずえ》を照し出している。楓《かえで》はうっとうしいくらい繁って来たが、それでもけさは青葉の色が滴《したた》るように見える。
縁先《えんさき》の左横手に寄って柘榴《ざくろ》が臥《ふし》ている。この柘榴は槙にも劣らぬ老木である。駱駝《らくだ》の背の瘤《こぶ》のような枝葉の集団が幾つかもくもくと盛りあがっている。そして太い幹が地を這《は》って遠呂智《おろち》のうねりを思わせるが、一|間《けん》ばかり這って、急に頭を斜
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