って小雨が降り出し、晩景にはちょっと雲切《くもぎれ》がして夕日が射す。不定な気象がそんな調子でぐずついている。
それがどうだろう。きょうは鶴見が朝早く目を覚してみると、もうとうに鮮かな日光が西の丘の小高い頂を輝かしている。いつもの通り座敷を掃除させて、机の前に端坐し、そして向うを眺めて好い気持になっている。端坐するということは、鶴見にはいつからか癖になっているので、厳格な意味でわざわざそうするのではない。一つは子供の時からの家庭の躾《しつけ》によるのであるが、父が言葉少なに忍耐を教えた指導法が、どんなにストイックなものであったかはさて措《お》いて、そうするのが、つまり彼には勝手になっていたからである。長時間坐っているのには、あぐらを組むよりも正坐が好ましい。合理的でもある。鶴見はそう思って、机に向うときはいつも正坐をする。書見《しょけん》をするにも体が引締められて、まともに本が読める。長年にわたるそうした経験が今ではならわしとなって身に附いているのである。
鶴見は障子《しょうじ》を開け放ったまま、朝の空気を心ゆくばかり静かに吸っていた。そしてこう思った。爽《さわ》やかな空気なら遠
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