定めの椅子を引き出して腰をおろす。鶴見の席は卓の幅の狭い側面を一人で占めることになっているのである。家族の人々は老人夫婦をはじめ出揃っている。
 この家の古い建築の仕方から見れば、いま食卓の据えてある土間の奥に竈《かまど》が築《きず》かれていて、朝夕に赤い火が燃えていたものと推測される。厨《くりや》が建増《たてまし》になってから、三つ続きの大きな竈もその方へ移されて、別に改良した煉瓦の竈も添わっている。内井戸も出来て、流し場も取りつけられ、すべては便利になっている。
 それで電燈は、出居と囲炉裏《いろり》の間《ま》との仕切の鴨居《かもい》に釘《くぎ》を打ちつけて、その釘にコオドを引き掛けてあるのを、夕食のおりだけはずして来て、食卓を側面から照らすように仕向けるのである。囲炉裏の間ともとは台所であったらしい部屋とのあいだには大きな柱が立っていて、大黒柱《だいこくばしら》と向い合いになっている。その柱をこの辺で、うし柱といっている。電燈はそのうし柱のすぐ側《そば》に掛けられる。丁度鶴見の席の背後になる。そんなわけで、そこに火の点く時が食事をはじめる合図になるのである。
 この家の主人は、お
前へ 次へ
全232ページ中39ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
蒲原 有明 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング