って、痩っぽちの裸体を風呂屋の洗い場で彼に見せてやった。
銭湯からの帰りしなに、泡鳴は満足げにぶらぶらと歩いていたが、遽《にわ》かに気がついたと見えて、煙草を買いに、とある雑貨店に立寄った。その店先に、「琉球泡盛あり」と埒《らち》もなく書いた貼紙《はりがみ》が出ている。コップ飲をさせるというのである。鶴見はそれが場所にふさわしくないので多少不安におもっている。
泡鳴はその貼紙に目をつけて、咄嗟《とっさ》にこういった。
「おい、君。一杯やってゆこう。」
「それも好かろう。」鶴見はそういって彼の要求に応ずるより外はなかった。そしておれはまた掬《すく》われたなと感じた。ちょうど手網にかかった雑魚《ざこ》のようにも思われたからである。
こういうような敏捷《びんしょう》な行動で、泡鳴は人生の機微を捕える。工夫といって別段の方法があったようには考えられない。
湯上りの泡盛は確《たしか》に旨かった。
木曾旅行の途次、贄川《にえかわ》の宿で乗合馬車が暫くのあいだ停《とま》っていた時のことである。折から鉄道工事の最中なので、大勢集っていた工夫たちにまじって、名産の「ななわらい」を一杯試みた。
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