げて、泳ぐような真似をしていたが、鶴見を迎えて「静岡は水道が好いので水がこんなに澄んでいる。それにこの水の柔らかさときたらたまりませんな」と話相手欲しそうにいった。
鶴見はこの男を貨物の注文を取りに来たか買出《かいだし》に来たか、そんな用事で、近所の商人宿に泊っているものだろうと思って見た。
その男と話しているうちに、何かの拍子《ひょうし》から、話は琉球の泡盛《あわもり》のことに移った。最近その泡盛を飲ませる店が、この風呂屋の向横町《むこうよこちょう》に出来て、一杯売をしている。鶴見もついさっきその店の前を通ってきたのである。スタンドの上にコップが数個並べてあり、その前に椅子が二、三脚置いてあるのが見える。設備といえばただそれだけに過ぎない。一杯売の外には多量に分けられぬというのを、近所の誼《よし》みでと無理に頼み込んで、時々一升|壜《びん》を持たせて買いに遣る。鶴見は平生《へいぜい》の飲物としては焼酎《しょうちゅう》を用い、焼酎よりもこの泡盛が何よりの好物《こうぶつ》である。
泡盛の話を最初にしかけて来た商人風の男も、だんだん聞いてみると、この横町の店に毎日通っているということ
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