った通り、自慢物なのだよ。」
 景彦は口の端を引き歪《ゆが》めて、今にも痛烈な皮肉が飛びだそうとするのを制しているようなもどかしさを感じながら、思わず片目をつぶって、まじまじと鶴見を見ている。
 鶴見はひとりで興に乗って語り続けた。「その発明をしたのは戦災前の事だがね。何か防空設備のことで一軒おいたとなりの箱職の主人が遣って来た。親分肌で、体は小柄であるが才気が勝っている。それで人の嫌がる組長を引き受けて勤めているのだ。おれがその男に今いった通りの酒代用品のことを話して見た。――そんなことで、やっと我慢しているが、確かに利目《ききめ》があるから、一時のごまかしとも違うなんどと、おれはその時強調していい足したことででもあったろう。あとで家のものに聞くと、その組長の親分が、しみじみと、それじゃ旦那も可哀《かわい》そうだといったそうである。その親分はね。やっぱり酒好きで、一週に二度ぐらい、夜になってから女房に隠して、どこかへ無理をして酒飲みに出掛けるということであった。おれはこれを聞いて、可哀そうな旦那はよかったと思った。そう思うと、心の底からおかしさが込み上げてきたよ。渋江抽斎《しぶえちゅ
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