は》だ誇張であるが、執著《しゅうちゃく》の書灰が蝶と化して、その幻想をいよいよ掻きたてて、ちらちらと舞を舞っているのが見えるようである。鶴見は現在自分の内部に沸《わ》き立《た》っているこの幻想を、少し離れたところからながめていられるようになっている。それがせめてもの心遣《こころや》りであろう。
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種子開顕
珍らしく景彦《かげひこ》が遣《や》って来た。景彦は人には姿を見せたことがない。ただ鶴見にだけはその面影が立って見えるのである。笑いもするし、怒りもするし、また生真面目《きまじめ》にもなる。その度ごとに速《すみやか》に変る表情を鶴見は目ざとくたどって、少しく不気味に思うこともある。どうかすると彼は神々にも鬼畜にも、忽《たちま》ちのうちに変貌する。常に分身であり、伴侶であり、かつまた警告者である。気随気儘なしれもので、いつ遣ってくるとも予想されない。とにかく彼の行動は出没自在である。きょうもどこからともなく、ついと入り来って鶴見と対座した。
鶴見も心得ているので、微笑しながら、「やあ、暫くだったね」といって彼を迎えた。
「暫くでした」といったきり、景彦はあい
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