《けいびん》な目がぎろりと光っているが、そこにも人なつこいところが見える。和尚と呼ぶのがあながち不適当とも思われない。
鶴見は今花袋と相対して無礼講をきめこんでいる。杯《さかずき》を措《お》く暇もない。その時何かの拍子にこんなことをいった。「花袋君。因襲はもちろん破らねばならないね。固定はすべての因襲の根源だ。それではどうだろう。生死というのも一つの観念にちがいない。ことに死はね。死は特に異様な相を帯びて目だつのだ。そういう死も一の固定した観念として、因襲として、当然排除せられるのだろう。花袋君、どうだろう。」
そんなことを、鶴見はしどろもどろにいってみたのである。話下手《はなしべた》ということはどうにもしようがない。花袋はそれをどうとったのか、「死が因襲であろうはずはない」と例の性急な口つきで声を励ました。鶴見はこの和尚の一喝《いっかつ》を喫してたじろいだ。
そうこうしているうちに、玄関に訪問客が見えたようすである。細君が座敷にはいってきて、
「いつも来る、あの人ですよ。今日は会ってやってはどうでしょう」と、取りなしぶりにいった。
「ただ今来客中だと、そういって断ってくれ。」花
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