ゃく》していない。なるがままになれというような風情《ふぜい》が見える。そしてかれはいつも快活であった。
藤村は訪ねて行った二人を、追々に閲歴のさびがついて島崎家の名物とまでなった、あの素朴な白木《しらき》の机のそばに引きつけておいて真面目な顔でいった。「どうだね。これからみんなで浅草にくり出して行こうじゃないか。」そういって、煙草の脂《やに》で染まった前歯をちらと見せて微笑する。
藤村がこんなときに言い出したことは、相談であるよりはむしろ命令にひとしい。そこにはかねて企図しておいた考がその実行を待っているというようなけはいがある。
この浅草行は鶴見たち二人にとって異存のあるべきようはなかった。たとえ多少の異存があったにしろ、異存をあらせまいとする力がその計画のうちにこめられていた。藤村の発言にはいつの場合でも、あとにはひかぬ意志のはたらきが婉曲なことばのなかにかくされていぬというためしはない。
浅草ではどんな風にわれわれ二人が訓《おし》えられたか、それを今語ってみたい。藤村は例の玉乗り興行場の前に立ちどまって、ゆっくりと煙草をふかしている。そしてまたゆっくりした言葉つきで、調子
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