も少女はこらえていた。見さかいがつかなくなった鶴見である。それからというもの、かれは本能の獣性の俘《とりこ》となって、牽《ひ》かれゆくままに行動した。
 折からの季節は真夏であった。あたりには白熱の光線が満ち溢れている。その中にあって鶴見の性慾は更に激しく燃えたった。そこには枝葉を繁らす樹木もなく濶達《かったつ》な青空もない。すべては発火点に達して、夢中になって狂躁曲を奏しているようにしか見えない。その光景は正《まさ》に迷妄世界の大火災を思わせるが、鶴見にはもうそう思ってみる余裕すらない。どこを見てもかれの見るところに性慾の焔《ほのお》が燃え移ってゆくのである。

 時が変化をもたらした。少女は縁があって結婚した。しかしどうした理由があったものか、結婚後半年もたたぬうちに戻されて、今度は兄の家へ引き取られた。この兄というのは軍籍にあったので、日清戦争後は小倉《こくら》の師団に転任させられた。少女もまた兄の赴任に随《つ》いて小倉へ行った。
 鶴見は兵役関係で父の郷里の本籍地へ行き、不合格を言い渡されてからもなお滞留していた。それから足掛け三年もぐずぐずしていたが、いよいよ帰京することに決
前へ 次へ
全232ページ中183ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
蒲原 有明 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング