して国許《くにもと》を出発し、途中小倉に立寄った。鶴見はここで久しぶりに往年の少女と遇うことになった。
この家の兄嫁というのはきさくな性分で、食事のおり、「これが東京でお世話になっていたときには大分面白いことがあったそうですね」といった。そういわれて、突然のことなので、ちょっと面《おも》はゆかったが、かれはその言葉をむしろ冷やかに聞き流してしまった。かれには一旦事が過ぎれば極めて冷淡にものをあしらう性癖がある。根本の執著心は深いけれども思いも寄らぬ冷淡さで過去を離れて現実に処してゆくことが出来た。諦らめでもなく仮装というのでもない。鶴見は自分にそういう性癖があるのを知り抜いていて、時には余りに冷やかすぎると思って悔《くや》むことさえある。
鶴見はこのたまたまの会見にも、些《いささか》の感情をも動かさずに、それきりに別れてきた。
一つ思い出すことは、その小倉でその日に雪が降りだして、翌朝起きてみれば、めずらしくも二尺以上積っていたということだけである。
また時が立った。今度は歳月の間隔が長かった。その間に鶴見は父を亡《うしな》い、その翌年には結婚していた。
或る日の晩方である
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