である。一ころ露西亜《ロシヤ》をバイロニズムが風靡《ふうび》した。そういう時代の世相をえがいたものである。うぶな少年にはその反社会的な行動が深刻に見なされて、矯激な思想の発揚に一種の魅惑を感じた。こんな深刻味のあるものを一女性の繊手《せんしゅ》に委《まか》せて夫子《ふうし》自らは別の境地に収まっている。鴎外はなぜそんな態度を取っているのだろう。バイロニズムに浮かされかかっていた少年にはそれ相応な幼稚な不満があって、それが一廉《ひとかど》の見識でもあるかのように思いなされるのである。
鶴見少年にも思想らしいものが、内から甲《こう》を拆《ひら》いて芽《め》ぐんでいる。そこに見られるのは不満の穎割葉《かいわれば》である。かれはいつのまにか生意気になってきた。
そのうちに中学の業を終える。明治二十五年である。少年期から青年期に入る。事の順序は表面平穏に推移するが、少年から青年に経過するその間の変遷は実際には驚くべきものがある。ただ一線を劃するのでなくして、平地に山のような波瀾を起すのである。別天地に入るのである。
性慾がはじめて問題になる。性慾は止むに止まれぬ本能の発露である。思想など
前へ
次へ
全232ページ中180ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
蒲原 有明 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング