この若者こそ迷惑なことである。透谷の『蓬莱曲』がとんだ罪を作った、そう気がついて見ると、鶴見は心のうちでこの友人に対して、すまぬことを考えていたと詫びるより外はなかった。
透谷には『蓬莱曲』以外に、少し後になって出したものに『宿魂鏡』がある。観念小説だという評判がわけもなく鶴見少年の心を打った。かなりむずかしい短篇である。これもやはり『国民之友』の附録に載せられたものである。心理の藪《やぶ》がその下に通ずる路を暗くしていた。少年の好奇心がその迷路をおぼつかなくもたどらせた。そんな記憶が残っている。透谷のもので、今一度読み返してみたい作品の一つである。
鴎外はトルストイと同様に英国人を嫌った。その点から推しても、本国に愛想をつかしたバイロンにある程度の関心を持っていたにちがいない。すでに『マンフレッド』首齣《しゅせき》の数十句の訳がある。そうかといって、バイロニズムには頓著《とんちゃく》するところがなかった。バイロンその人というところのバイロニズムとは別物である。無分別な鶴見にそんなわけが弁《わきま》えられるはずはなかった。
『浴泉記』が出た。鴎外の実の妹に当る小金井喜美子の訳筆
前へ
次へ
全232ページ中179ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
蒲原 有明 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング