家族は困り切って、寄るとさわると、窮乏の話をひそひそとしていた。今度の継母は父と同じ藩の然るべき武士の家から出ていたので、そういう窮乏組の女たちがよく尋ねて来て、繰《く》り言《ごと》をいって、為すこともなく一日を暮らして行った。
継母は継母で一家の経済を極端につましくした。
これまでぼんやり育って来た鶴見にはまだ買物をする呼吸がわからない。いつでも同じ事であるが、その頃の商人はことにこすかった。こすいのはまだ好いがごまかしをやった。空缶《あきかん》を持って行って煎餅《せんべい》を買いにやられる。買って来ると、
「何といって買ったの。」継母から意外な問が出る。
「この缶にいくらだけ入れてくださいといいました。」鶴見にはまだ様子がわからないので、そういって正直なところを打あける。
「そんな迂濶《うかつ》なことで好いのかね。これからは品物を缶に入れさせて置いて、これでいくらと聞いてみるのだね。ごまかされるよ。」
事ごとにこんな風にたしなめられて今までに覚えぬつらさを感じた。
鶴見はこうして、日々に鍛え上げられる。些細《ささい》なことのようであるが、それでも効果はあった。鞭《むち》をあ
前へ
次へ
全232ページ中149ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
蒲原 有明 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング