文芸の畑の土壌に培《つちか》われた作品である。おおよその人が老年になって、往事を無邪気に顧みて、ただそれなりに皺《しわ》ばんだ口辺《こうへん》に微笑を湛《たた》え得るならば、それでも人生の静かな怡楽《いらく》が感ぜられもし、またその境地で満足してもいられよう。しかしそれは凡俗のことである。彼の作品は凡俗とは全く質を異にしていた。
 彼にあっては、その作品は幼時の溌剌《はつらつ》たる官能を老いてますます増強した炯眼《けいがん》に依憑《いひょう》させ、そこから推移発展させて、始めて収めえたる数十篇である。その一つ一つが珠玉を聯《つら》ねて編み成されている。多少作り事の嫌いがあると疑うものがあれば、それは短見であろう。試《ためし》にその珠玉の一つを取って透して見れば、人はその多彩に驚かされるにちがいない。あの複雑な巴里《パリ》が、適確な観察の光線の中で、首尾よく踊らされているのである。盛大があり、零落があり、恋愛があり、欺瞞があり、嬌笑がある。それらはいわば機智と冷刺との雰囲気の中で、動く塵埃《じんあい》でその塵埃が虹のような光彩を漲《みなぎ》らしているのである。幼年の作家は老熟した足どりで
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