》の大花火のことが自然に想起される。それは母に抱かれていた幼時のこと、これは草深い地方の田園で由緒ある花火に興じたこと、恐らくはこれがおれの花火に関する閲歴のとじめになるだろう。鶴見はそう思ってみて、更に深い感慨に耽《ふけ》るのである。

 さて元へ戻るにしても、母の膝にあがって仕掛花火に火のつく度《たび》ごとに手を拍《う》ってよろこんだ元の桟敷へは戻れない。深々と幌《ほろ》をかけた車の中で、帰路を急がせる切ない思いをして、母はしっかり幼児を抱えている。花火見物の最中に天候が一変してひどい雷雨となったからである。電光が幌を破るようにして隙間《すきま》から射し込んで来る。おりおり神解《かみと》けがするもようである。凄《すさま》じいその音響に湿気を帯びた重い空気がびりびりと震動する。
 このありさまに車夫も走るのをためらって、暫くのあいだ車を駐《と》めた。そこはとある店屋の前であった。
 ここに不思議な記憶の破片が残っていて、その店屋の菓子屋であるということが確められる。車を駐めたのは日本橋の裏通りあたりではなかったかと、ついそんな気がさせられる場所である。あとから立ち入って考えて見れば、
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