。一仕事でございましたよ。」曾乃刀自はこういって、娘の静代を顧みて、いかにも同感に堪えないというような表情をする。
「それにまた実を取らないでそのまま附けて置くと、冬になってからあの莢がはじけて、古綿のようなこまかいものが飛び出して来ましたね。そこらじゅうを埃《ほこり》だらけにします。それを掃除するのが骨折でございました。」
家人たちは、きささげ[#「きささげ」に傍点]にはよくよく懲《こ》りたものと見える。鶴見は苦笑しながらも、あの向いの家の年寄りも戦災後どうしたことやらと思ったりして、気の毒がっている。
そんなやかましい楸もすっかり焼けてしまった。
渡来植物といえば、なお一つ気に掛けていたことがある。夾竹桃《きょうちくとう》である。鶴見は明治二十五年の夏になって、はじめて夾竹桃を実見した。ところは沼津の志下《しげ》で、そこに某侯爵の別荘があった。引きめぐらした伊豆石《いずいし》の塀の上に幾株かの夾竹桃が被《かぶ》さって、その梢《こずえ》を茂らせていた。淡紅色で重弁の花が盛に咲いている。木の性《しょう》はまるで違うが、花の趣が遠目《とおめ》にはどこか百日紅《さるすべり》に似たと
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