たからであろう。その実はささげ[#「ささげ」に傍点]豆のような形で、房になって枝ごとに垂れ下る。一本の木からかなり多量に取れる。そんなわけからきささげ[#「きささげ」に傍点]の名称が起り、それが後世では広く行われた。夏の土用のころ、莢《さや》のまだ青いうちに採って蔭干《かげぼし》にして置く。利尿剤として薬種屋でも取扱い、今でもなお民間で使っているのがそれである。
鶴見はここまで考えつづけているうちに、心に一つの顔を思い浮べていた。記憶の鏡にぼんやり映っているのである。よくよく見れば、それは鶴見自身の困ったような顔である。
「あれには本当に困ったなあ。ほら、あの日除《ひよけ》にもなるといって、青桐代りにうえさせたきささげ[#「きささげ」に傍点]だよ。土用時分になると、毎年忘れずに、向いの家からその実を貰いに来たものだ。老人がいて、寝たり起きたりしている。薬にするからだといってたね。」
「そうですとも。うちでは入用がありませんから、いくらあげても好かったのでございます。ちっとも惜しくはなかったのですが、梯子《はしご》を掛けたり、屋根に上ったりして、高い枝から実を取って遣《や》るのでしょう
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