は今一本手が欲しくなりますネ』と言つて苦笑した次第であるが、印度の如きも多分これと同斷の蠅であつた爲め、四臂六臂の佛像が作り出され、其の一本には必ず拂子を持たせてゐるのであらうと悟つた。
ルクゾールから更にナイルを溯つてアスワンに行けば、流石に大分靜かになつて、谷は逼り水は清く、山河のたゝずまひも可愛らしくなつて來るが、エレフワンチンの島も左程美しくはなかつた。たゞ印象の深かつたのは、石切場附近の荒凉たる風物と、切り殘した古代の「オベリスク」と、又半ば以上水中に沈んだフイレーの神祠であつた。眞黒な土人に小舟を漕がせて亡國の船唄を聞き、水中から頭だけを出してゐる神祠の屋根に登るのは、珍らしい見物であつたが、「ダム」の長堤を走つては、此の世界有數の大工事に驚嘆する外はなかつた。
我々は此のナイルの第一瀑流から引きかへして、カイロへ歸へる途中、エドフ、デンデラとアビドスの三神祠を訪ねた。併し此等も先づ以て千遍一律の建築と言つてよく、ケネーの田舍宿では虱に攻撃せられ、汽車の中では塵埃と南京蟲に惱まされ、あらゆる惡蟲を經驗し盡して、二週間ぶりにポートセイドへ歸著し、一日遲れて到著した我が伏見
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