でゐるルクゾールや、カルナツクの神祠などは、いかにも清々しい環境にあるかの如く想像せられるのであるが、其の實晝の間はやはり塵埃と見物客の雜沓に惱まされ、物乞ひの類に煩はされる場處に過ぎない。たゞ私共の逗つた「サボイ・ホテル」は、直にナイルの岸に臨み、其の朝夕の景色は忘るゝことの出來ない情趣を湛へて居る。テーベスの山に落ちる夕日は、足下に走るナイルの白帆の上に映じて、夜色漸く山河を鎖してからは、始めてルクゾールも昔ながらの靜寂に歸るのである。
テーベスの王陵の谷に驢馬を驅れば、強い日光は禿山と砂地に反射して目がくらむばかり、ツタンカーメンの墓穴に入り、石棺の内にまざ/\と殘つてゐる遺骸を見、更に三四の陵墓の深い横穴に入つて、其の規模の宏大には驚いたが、デル・エル・パーリの神祠の、直下千尺の懸崖の下に立つてゐる姿には、實に天下無比の偉觀と感服した。併しテーベスの一亭で中食を取つた時の蠅には、遂に憤慨せざるを得なかつた。支那、希臘の蠅も到底これには及ばない。拂子を以て間斷なく之を拂つても中々飛び去らず、顏や手にとまつては皮を螫さずんば已まない勢である。私は同伴の倉田君に向つて思はず『これで
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